【川竹】 渡辺先生は西医学という独特の方法で、初期のガンであれば手術もしないで完治させておられるし、進行ガンでは、手術後の再発や転移防止に優秀な成績を上げてらっしゃいますが、北海道大学医学部で現代西洋医学を学ばれながら、西勝造さんという一個人が創始した西医学の道を歩まれるのは、なかなか勇気のいることだったのではないでしょうか。
【渡辺】 私も大学卒業後、いわゆる西洋医学の病院に勤務していたんだが、どうにも納得いかないことが多かった。
簡単に言えば、現代西洋医学は、薬と手術に頼るだけで、慢性病も根本的に治すことが出来ない。本当には治っていない。ガンも治らない。放射線や抗ガン剤は副作用が多くて患者を苦しめている。更に、ガンの真の原因も分からないままやっているから、対症療法にしか過ぎないわけです。だから、手術してもまた再発してくる。
そういうことに次第に疑問が膨らんでいたので、周囲の反対を押し切って、西医学の実践の場として、独立開院したわけです。
【川竹】 なるほど。さて、そういう西医学の観点から見ますと、ガンはどういう病気ということになりますか。
【渡辺】 大きく分けて四つの原因からなる病気だと考えています。血液中の一酸化炭素の増加。ビタミンCの不足。体液の極端なアルカリ化、血液循環の悪化、です。中でも一酸化炭素の増加最大の原因ですね。
当然、治療法も、この原因を根本的に取りのぞくことに力を注ぎます。
【川竹】 なるほど。一酸化炭素の増加は、裏を返せば酸素不足ということだと思いますが、これについてはノーベル賞学者のワールブルグが『組織の慢性的な酸素不足が、発ガンに大きな役割を果たしている』と指摘していて大変有名ですが、西医学は、その酸素不足の原因そのものに、皮膚呼吸の低下をあげられていますね。
【渡辺】 そうですね。フランスのエストリポーは『体内の一酸化濃度が標準の十倍を越えるとガンになる』と言っていますが、その原因は皮膚呼吸の低下で酸素が不足するからですね。呼吸というと肺呼吸にしか目がいかないが、実は皮膚呼吸の果たす役割はとても大切で、大きな火傷で命を落とすのも、この皮膚呼吸が損なわれて、酸素が不足した結果に他ならない。つまり、肺から取り入れる酸素だけでは健康を保てない。ところが現代人は、冷暖房完備の非常に密閉性の高い環境に暮らしている上、厚着をしているでしょう。だから皮膚呼吸が非常に低下しています。
そこで西医学では、『裸療法』で皮膚呼吸を活発にし、酸素不足を解消するわけです。これは、文字通り裸になって、皮膚を外気にさらすことを何度も繰り返す方法です。
食物は細胞内で、ブドウ糖、酢酸と変わり、そこに酸素が加わって蟻酸(ぎさん)になり、さらに酸素の働きでそれが、無害な炭酸ガスと水に分解されるのです。酸素不足だと、蟻酸は結石症などの原因になる無機蓚酸(しゅうさん)に変化し、さらに一酸化炭素になって、ガンを引き起こすわけです。
ところが、薄着にして皮膚から酸素を取り入れてやると、いったん出来た無機蓚酸も炭酸ガスと水になって無害となるのです。裸療法をやる理由はここにもあります。
【川竹】 さて次に、ガンの原因として、西医学ではビタミンCの不足を上げています。ビタミンCが発ガンを抑えることについては、アメリカのノーベル賞学者のポーリング博士以来有名ですが、西医学では、これにはどう対処されるのですか。
【渡辺】 『生野菜食』です。緑黄色野菜を含んだ野菜五種類以上を、生のまま特殊なジューサーで泥状にし、毎日二回、食事のたびにとるわけです。西医学では、朝食廃止を唱えていますので、食事は一日二回です。
Cを補う方法としては、その外、ビタミンCの豊富な柿茶を毎日一〜二リットル飲んでもらいます。
【川竹】 三番目の原因としては、血液循環の悪化をあげられていますね。
【渡辺】 申すまでもなく、血液は栄養や酸素を運ぶ重要な役割を担っています。が、血液循環が悪いと、組織に酸素欠乏を起こします。西医学では、心臓は循環を調節するためのタンクに過ぎず、血液の循環を主につかさどるのは、全身に張り巡らされた五十一億本もの毛細血管の毛細管現象にあるという、独特の考えを持っています。
水の四、五倍もの粘着力を持った血液がですよ、わずか握りこぶし大の心臓の、そのまた四分の一くらいの左心室の収縮力だけで、全身五十一億本もの毛細血管を、それもわずか二十二秒で一巡するというのは、水力学的に、とうてい考えられない。しかも、毛細血管の直径は、〇・〇〇五mmしかないんですよ。つまり、心臓は補助的な働きにすぎなくて、毛細血管の毛細管現象が血液循環の主力を中心を担っているのです。
ですから、西医学では、血行促進に最も有効な手段として、この毛細血管の働きを促進させる『毛管運動』を用いているわけです。全身の毛細血管の七〇%が両手両足に集まっているので、仰向けに寝て、手足を上げたままブルブルと震わせる。これを一日二回、二分間ずつやるだけ。簡単なものです。
さて、西医学を語る上で、ぜひとも強調しておきたいのは、グローミューの存在です。毛細血管は、小動脈と小静脈を連絡していますが、この両者をバイパスのようにつなぐのがグローミューで、西医学は、この独特の働きに注目しています。
例えば、恐怖を感じたり、身体が急に寒気にさらされたりすると、身体の表面の毛細血管が収縮して、血液の流れが遮断されますね。その時に遮断された血液は、グローミューを通って、小動脈から小静脈へと直接流れていくんです。この働きがないと、血液は行き場がなくなって、毛細血管を破裂させて、皮下出血を起こさせたりする。
これはほんの一例ですが、グローミューは、このようにして、生体の緊急事態をうまくしのいでいくという重要な役割を担っているんです。毛細血管と共同して、身体を守っているといっていい。
『毛管運動』は、その大切なグローミューの機能を高めるのに最適なんです。
ところがグローミューは四十歳を過ぎると徐々に衰退する。その上、アルコール過剰で硬化し、糖分を過剰にとると溶けて消失してしまったりする。これがいずれも、ガンの原因になります。
ただ嬉しいことに、グローミューは再生・修理が可能。それを促進させるのが、先程の生野菜食、つまりビタミンCなんです。
最近良く耳にするコラーゲンは、あらゆる細胞の組織を再生させたり、傷の修理をしたりするときに欠かせないタンパク質ですが、これは、ビタミンCがないと出来ない。そのためにも、『生野菜食』は、必要欠くべからざるものということになる。
また、これも西医学独特の考えですが、ビタミンCは、皮膚呼吸を盛んにして、十分な酸素を血中に供給してやると、身体の中で合成されるんです。最初にあげた『裸療法』は、この点でも有効性を発揮します。
【川竹】 四つ目の原因として、体液の酸とアルカリのアンバランスがあるとのことですが。
【渡辺】 人間の身体は、ややアルカリ寄りの、ほぼ中性の状態、PH七.四に保たれているときが最も健康です。これがPH七.三五以下の酸性の状態が進行すると、糖尿病、腎臓病、高血圧や脳出血。反対に、PH七.四五以上のアルカリの状態が進むと、胃潰瘍、喘息、ガンなどになります。
このバランスは、ちょっとしたことでもすぐに崩れて、例えば、激しい運動や労働を続けた場合は酸性に傾くし、長く安静にしていた場合はアルカリに傾きます。
食物では、牛、豚、魚などの動物食品は酸性。野菜、果物などはアルカリ性食品です。
【川竹】 今のお話ですと、ガンは体液がアルカリに強く傾いた状態でなる病気ということですが、西医学では、どうやってこの崩れたバランスを回復しようとするのでしょう。
【渡辺】 『生野菜食』と『温冷浴』です。煮た野菜はアルカリ性ですが、生野菜はちょうど中性なので、バランス回復に最もよろしい。『温冷浴』は文字通り、温かい湯と水とに交互に入る。この時かならず、まず水から入り、湯、水とそれぞれ一分ずつ、七回繰り返し、最後にまた水に入って終了です。
温かい湯に入ると体液アルカリ性に、逆に冷たい水に入ると体液は酸性になります。そこで、交互に入ることによって、バランスを回復していくわけです。
【川竹】 なるほど、西医学の方法はどれもみなきわめてシンプルですね。
現代西洋医学のガン医療は、各臓器別に、個々の症状をバラバラに追っ掛けることで、複雑で大がかりになる一方ですね。その上、さまざまな副作用への対処にも追われていて、どんどん複雑な迷路に入ってしまい、しかも、今だに、再発を防ぐ有効な手段もまったく持ち得ないでいます。
その点、西医学の、シンプルで身体にやさしい治療法で実際にたくさんの方が治っている事実を知っている私としては、一種の爽快ささえ感じますね。
【渡辺】 ありがとうございます。西医学の根本にあるのは、『生体一者』という考えです。 人間の身体はバラバラな部品の寄せ集めではなく、それぞれにつながり、有機的に統一された一つのもの、つまり『一者』と見ています。
酸素と二酸化炭素、水分、塩分、体温、体液の酸・アルカリ。さまざまなものが、ホルモンや自律神経の働きによって、常に一定の範囲の中で、バランスを保っている。これが『一者』の状態、つまり、健康。それが崩れると病気です。ですから、ガンであれ、他のどんな病気であれ、ともかく、この崩れたバランスを、再び復元してやればいい。今紹介しました治療法は、その働き、つまり自然治癒力を応援する方法なんです。
【川竹】 それでは、渡辺先生のもとで、実際にガンから回復された最近の実例を少しご紹介いただけますか。海外から来られる方も少なくないようですね。
【渡辺】 平成六年に韓国から来られた七十二歳の女性ですが、左胸に鶏の卵大のガンがありまして、すでにリンパ節にも親指の頭より大きな転移もある。痩せ細ってね、衰弱しきって、痛い痛いと言うばかりなんです。韓国の国立ガンセンターにも行ったが、手術は出来ないし、抗ガン剤も体力的に無理だろうというので、私のところに来ました。
入院中は、裸療法を一日八回以上、温冷浴、生野菜食、毛管運動などをとりあえず二週間やったところ、夜もよく寝られるようになり、結局、一ヵ月半程で退院して、今も、とてもお元気にしていますね。
それから、昭和六十二年ですが、ハワイの日系人で悪性リンパ腫の方がいましてね、この方は最初、スタンフォード大学を紹介されたんだが、西医学で治したいということで、私のところに三ヵ月入院されて、裸療法や食事療法、温冷浴などを実行して、やはり完治しました。
スタンフォード大学の専門医が、ハワイクワキニメディカルセンターで検査をしたところ、間違いなく完治していて、その証明書を私のところに送って来たこともありました。今も、毎年クリスマスカードが来ますね。
この方もそうですが、治った方は皆さんね、退院後も、しっかりと生野菜食や、裸療法や毛管運動などを続けられていますよ。
【川竹】 なるほど。西医学は、治療方法がシンプルなだけに、患者さん本人の努力の程度がそのまま成績に表れてくるという、本質的なところでの厳しさも同時に持ち合わせている気がしますね。しかしこの厳しさは、私にはとてもいいことに思えるのです。
ガンの原因は、長年の間違った生活習慣にあるわけですから、つまりは、患者さんに責任がある。とすれば、治す主体もやはり患者さんでなければならない。
西医学は、その最も基本的なところをしっかりと押さえているすばらしい治療体系だと、今日改めて思いました。ありがとうございました。